令和7年度 冬の生涯学習講座のご報告
今回の講演は、肩関節疾患を単なる局所障害として捉えるのではなく、「正常を知る」「全体を診る」「会話を重視する」「常に検証する」という臨床の本質的な視点から体系的に整理されており、大変学びの多い内容でした。解剖学やバイオメカニクスの基礎を丁寧に押さえながら、肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節の関係性や肩甲上腕リズム、腱板機能について臨床と結び付けて解説されており、理解が深まりました。また、凍結肩の病期分類や腱板断裂の予後、脳卒中後肩痛への対応など、エビデンスに基づいた内容が盛り込まれている点も非常に実践的だと感じました。特に問診や視診の重要性を改めて認識することができ、基本を徹底する姿勢の大切さを再確認できる講演でした。
以下、講演を要約しました。
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肩関節疾患の見方
Ⅰ.はじめに
肩関節は高い可動性を有する一方で構造的安定性に乏しく、疼痛や可動域制限を生じやすい関節である。臨床では「肩が痛い」「挙がらない」といった訴えで受診することが多いが、その背景には凍結肩、腱板断裂、インピンジメント症候群、脳卒中後肩痛など多様な病態が存在する。
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Ⅱ.肩関節を診る基本原則
肩関節評価の根幹は以下の4点に集約される。
1.正常を知る
2.全体を診る
3.会話を重視する
4.常に検証する姿勢を持つ
1.正常可動域の理解
ADL遂行に必要な肩関節可動域は、屈曲および外転約130°、肘屈曲150°と報告されている(Oosterwijkら, 2018)。正常との比較により、制限因子や代償の存在が明確となる。
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Ⅲ.肩関節の構造と運動学
肩関節は以下の複合体として機能する。
- 肩甲上腕関節(GH)
- 肩甲胸郭関節(ST)
- 肩鎖関節(AC)
- 胸鎖関節(SC)
- 第2肩関節(肩峰下関節)
1.肩甲上腕リズム
上肢挙上30°(屈曲60°)以降では、GH:ST=2:1の割合で運動が生じる。いずれかの関節に可動制限が生じると、他部位で代償が起こり、結果として障害を誘発する。
2.安定化機構
GH関節は骨性安定性に乏しく、以下の機構で安定性を確保している。
(1)静的安定機構
- 関節唇
- 関節包
- 関節上腕靱帯
(2)動的安定機構
- 三角筋
- 腱板(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)
- 上腕二頭筋長頭腱腱板は関節軸形成に寄与し、骨頭の転がり・滑りを制御する。骨頭偏位(Obligate translation)は局所的拘縮により発生し、インピンジメントの要因となる。
(3)肩甲胸郭関節
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Ⅳ.代表的肩関節疾患
1.インピンジメント症候群
上肢挙上時に肩峰下で軟部組織が挟み込まれる病態である。GH関節のみに着目すると外転50°〜70°で最も肩峰下圧が増大する。疼痛出現角度の特定はアプローチ選択に直結する。
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2.腱板断裂
腱板断裂は自然治癒が困難であり、Safranら(2011)は非手術例の約49%で断裂拡大を報告している。診断にはMRI(T2強調像)およびエコーが有用である。
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3.凍結肩
40~60歳代に多く、明確な外傷歴がないにもかかわらず疼痛と拘縮を呈する。罹患率は2~5%とされる。
病期は以下の3期に分類される(日本理学療法士協会, 2022)。
1.炎症期(freezing phase)
2.慢性期(frozen phase)
3.回復期(thawing phase)
炎症期に過度な可動域訓練を行うと症状悪化の可能性があるため、病期に応じた介入が不可欠である。
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4.脳卒中後肩痛
片麻痺患者における肩痛の要因として、亜脱臼、腱板損傷、痙縮などが挙げられる。三角巾や装具の使用は賛否があるが、目的や状況に合わせた使用と、上肢機能獲得による早期離脱が重要である。
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Ⅴ.評価戦略
1.問診
4W1Hに基づく問診を実施する。
- 夜間痛の有無
- 安静時痛か運動時痛か
- 痛みの質
- 日常生活で最も困っている動作
Palm signやFinger signも有用な所見である。
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2.視診
- 両肩の高さ
- 三角筋や棘上筋の萎縮
- 肩甲上腕リズム
- 疼痛回避姿勢
- 猫背・巻き肩など姿勢
静的・動的双方を評価する。
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3.触診・整形外科的テスト
- Full can test
- Empty can test
- Drop arm sign
- 外旋ラグサイン
- Yergason test
- Speed test
付着部走行を理解した上で実施することが重要である。
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4.評価スケール
- JOAスコア
- JSS
- DASH
- SPADI
- SST
- Constant-Murley Score など
客観的指標を併用し、経時的変化を把握する。
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Ⅵ.生活指導
肩に優しい動作指導(更衣、ドライヤー使用、自動車運転など)は再発予防に重要である。環境・生活背景を踏まえた支援が必要である。
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Ⅶ.結語
肩関節疾患の評価において最も重要なのは、局所の病態理解だけでなく、全身的運動連鎖と生活背景を含めた統合的視点である。
- 正常を基準とした比較
- 全体を診る姿勢
- 丁寧な問診
- 常に仮説を検証する態度
これらが臨床推論の質を高め、適切な介入へと繋がる。